アンディ
「知らないおじさんについていったらダメやよ」
小さな頃から母にはこう言って育てられました。田舎で育った私は、幸いにも知らないおじさんに声をかけられることもなくすくすく育ちました。
そんな私が大人になって、さらに異国の地で知らないおじさんについていってしまったときの話です。
その人はセントラルマーケットの前で声をかけてきました。シンガポール人の彼は時間があるときにクアラルンプールにやってきてはボランティアでガイドをやっていると言いました。アンディと名乗ったその人は私たちにクアラルンプールの街を案内すると言うのです。
決して旅先で浮かれて警戒心を失ってはいけません。ましてや、知らないおじさんについていってはいけません。私は断るつもりでした。ただ、一緒にいたお友達は「本当にタダなのね。じゃあ、お願いしようかしら。」という雰囲気なのです。
結局、熱心な誘いに負け私たちはアンディにガイドをお願いすることにしました。このあたりではちょっとした有名人なのか、道行く人たちとアンディは顔見知りのように挨拶をかわしています。
買い物の途中に一人だけ列を離れて水を買いに行った私は、戻るとアンディにひどく叱られました。「何も言わずにいなくなっちゃダメだ。心配するだろ。」と。
ひとしきり主要なスポットを案内し、熱心にクアラルンプールの魅力を語り、ひたすらカメラマンに徹していたアンディ。私たちは日本から予約していたスパの前でアンディと別れました。最後までお金を要求されることはありませんでした。
怪しい人だと疑ったり、一人で水を買いに姿を消してすみませんでした。私はクアラルンプールに行くとアンディとのことを思い出します。